ハウスメーカーの「家賃保証」「賃料一括借り上げ」の落とし穴

1 大手ハウスメーカーによる賃貸アパートの乱立

弊社も取引先などに新年のあいさつ回りに当然行くわけですが、私は不動産業務を主として行っていますので、取引や親交のある不動産業者さんのところにあいさつに回ります。
その際に、最近どうですか~、全然ですね~なんて話がでるわけです。
最近は、建築は大手ハウスメーカーが土地を買い上げて分譲し、建売で販売するばかりです。函南町内でも建売物件があちらこちらで建設中です。

 

営業マン
賃貸も例外ではなく、動向は渋い模様です。その中で、大手ハウスメーカーがあちらこちらに建てているアパートの話になりました。
よくテレビCMで「30年家賃保証」「賃料一括借り上げ」なんてやってますよね、あれです。ピンとくる方も多いはずです。
やはり、函南町内でもそこらじゅうに同じようなアパートが建設中です。
あー、またここにも建ててるよ…なんて地元の小さな工務店の人間としてはげっそりしてしまうわけですが、そういったアパートの空き部屋率、非常に高いです(自らチラシを投函している私の実感です)。
そう、最近よくいわれていますが、賃貸物件は(こういったハウスメーカーによる乱立も手伝って)飽和状態だそうです。需要と供給のバランスが崩れ始めているということです。

 

2 家賃保証の実態

そこで、大手ハウスメーカーを中心に今なされているのが家賃保証。
「家賃を30年間(この期間はもちろん契約によります)保証します、ですから空き部屋が出ても確実に家賃収入があります。」という名目で、地主にアパート建築を持ちかけるわけです。
しかし、この制度が出始めて、まだ15年程度だそうです。つまり、制度構築から当初見込んだ30年という年月がたっておりません。そのため、これが本当に有効で有用な制度なのかは、現時点では誰も証明できないということです。

 

街並み

よく考えてみてください。
先ほど、既に賃貸物件は飽和状態にあるそうです、と書きました。既に物件が余っている、ということは、空き部屋が多い、ということです。いくら資金力に優れる大手ハウスメーカーといえど、収入がない空き部屋のために、オーナーにその家賃を提供し続けられるでしょうか?
しかも今もどんどんそのようなアパートが増え続けています。つまり、さらに空き部屋が増える、ということです。
はたしてこのような制度が30年後にも継続しているでしょうか?

 

ではなぜこのような制度を導入するか。考えてみると簡単です。
受注するためにはそれが一番簡単だからです。
住宅建築は大きなお金が動きます。受注を逃せばそれがそのまま大きな痛手になるわけです。
でも、住宅なんてホイホイ購入できるものではないし、消費者も知恵をつけ始めているため、なかなか受注が取れなくなりつつある。そこで受注を確保するために、将来の収入を見込んだ一種の投資の勧誘として営業に回り、受注を獲得するのです。

 

3 家賃保証の現実

このように、継続可能性に疑問が生じるこの制度の中で、さらに物件数を増やしている大手ハウスメーカーは同一条件により30年家賃保証を続けていればいずれ破たんします。
しかし、当然、ハウスメーカーも何らの対策も講じていないわけではありません。むしろ利益が上げられるからこそ継続しているのです。

 

それではいったいどのような対策を講じているのでしょうか?
これは、あいさつ回りに伺った不動産業者の方が、ある大手ハウスメーカーが家賃保証を謳ったアパートのオーナーから聞いた話だそうです。

 

①数年に一度家賃を見直す

契約

建物は経年劣化していきますから、家賃もそれ相応に下げざるを得ません。そして、大手ハウスメーカーも「同一条件での家賃保証」とは謳っていません。ハウスメーカーとしても、家賃が下がればその分支出が減るわけですから、数年に一度家賃を下げるようオーナーに迫ります。
もちろんオーナーは、これを拒みます。30年同一条件での家賃保証と信じているからです。しかし、これに応じなかった場合、ハウスメーカー側は家賃保証の契約を解除する、といってくるそうです。
つまり、契約書にはじめから解除条項が用意されている、ということです。このような家賃交渉では、そのイニシアティブはハウスメーカー側にあるといえます。

もしオーナーが家賃交渉を拒絶した場合、契約が解除される可能性がありますが、その場合でも管理会社を変更されないように、新たな条件を提示して管理契約を結ぶパターンもあるそうです。

ただし、これではハウスメーカー側は支出が減るだけです。しかし、この制度にはハウスメーカーが収入を上げるための手段があります。

②改装・改修工事の営業

家賃を保証する以上は、常に魅力的で空き部屋の少ない物件を維持する必要があります。
そこで、ハウスメーカー側から改装・改修工事をするよう求められるそうです。
しかも、その金額は、通常より高めに設定されます。なぜなら、ハウスメーカー自体が工事をやるわけではなく、地元の工務店等を下請けに使うため、その見積金額に数%の利益が乗せられるからです。
しかも、この工事を拒絶すると、家賃保証を解除する旨告げられるとのこと。

 

弊社の地元のオーナーさんは、3棟のアパートの外装改修工事を提案され、1棟500万円、計1500万円の改修工事を余儀なくされたとのこと。
泣く泣く借金をして工事を行ったそうですが、こんなはずではなかった…と嘆いているそうです。

③退去後の補修と称した改修工事

前入居者が退去した後、次の入居者を迎えるために補修を行いますが、信じられないことに、知らないうちに(勝手に)部屋のリフォームまで行って後々請求してきたそうです。
実際、リフォームするには当然所有者の許可や発注が必要なはずですが…。

 

4 まとめ

以上のように、家賃保証といっても、新築当初の家賃がそのまま30年間保証されるわけではなく、また、家賃収入は減っていくのにローン返済に+αの費用が掛かるということです。
しかも、そういったデメリットは契約の際にあまり説明されない可能性が高く、いつの間にか請負契約に至ってしまった、などということも多いのです。
建物は所有しているだけで費用が掛かり、また、固定資産税等の税金も掛かってきます。
したがって、家賃保証などという甘言を信用して無考慮にこれに飛びつくことは後悔の種になります。

しかし、家賃保証制度それ自体を全面否定しているわけではありません。一定期間の収入は確保され、計算できるわけですから。
大事なのは、建築請負契約時の慎重さです。契約書案を事前に提出してもらい、隅々までチェックすること、特に解約事項や家賃の改定条項などがあれば要チェックです。
そしてわからないことがあれば営業担当者に説明を求めること。もしそこであいまいな返答が返ってきたり、逆に不確定なことについて断定的な返答が返ってきたときは要注意です。
そして、担当者の返答に対してご自身が納得できないようであれば交渉するべきです。ただし、そのような契約書は定型化されたものであるのが通常なので、交渉に応じてくれない可能性があります。
その場合には、本当にその契約が自分にとって必要なものかもう一度考えてみるとよいと思います。

 

契約書はサインしたらその契約書の中に書いてあることについて了承した、ということを立証するものになります。
どんな契約書でもそうですが、契約書の署名押印には細心の注意を払いましょう。

 

 


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